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並木陽さま「マインツのヴィルヘルム」感想

 

 

並木陽さま「マインツのヴィルヘルム」2018.5

https://privatter.net/p/3491109

@namicky24 

 

 

 菖蒲、柳、あと何かな白樺のような木。菖蒲を手にうっとりとした目で美しい人が佇んでいます。

 

 最初マインツのヴィルヘルムは歴史小説アンソロジー『世界史C』(史文庫さま編,2015)で読ませていただいてました。その時も静かな感動を覚えて好きな作品、好きな作家さんだなーと思った記憶があります。その再録とのことでこちらで久しぶりに読み返しました。

 まずお母さんが東方の部族の長の娘…、というのが私にはツボで、この人も故郷を離れてどのように過ごしていたのだろうと思うと胸が苦しいです。スラヴの神話については(ぼんやりとスラヴ好きなのに)無知なのですが滅ぼされてゆく神話、消えていった無数の神々、東欧のDimna Juda mamo(マケドニアの「コパチカ」の最初歌い出しに登場するブライナのディムナ・ユダ・ママ)みたいな、フォークダンス音楽の歌詞にも何か突然出てくる謎の民間伝承がとても面白いなと思ったりしていました。でも言語の無かったスラヴの世界の神話が現代に伝えられたのは確かに奇跡、文字があるのがあたりまえの世界に暮らし文字無しに何も語れない私には多分はっきりとは理解できない感覚なのですが、文字が無いということもだし、文字(ラテン語)で書き記すこと、など、それはいったい当時の人にとってどういうことだったのだろうと興味深く思いました。でも私には難しくてそんなことずっと考えていると先に進みませんので・・・。

 そうそう、滅ぼされてゆく神話といえば、並木さんの「茎韮の花」という美しい作品があるのですが (孤伏澤つたゐ様編語り直し日本神話合同誌『常世辺に帰す』,2018) 、こちらは日本のひとつの部族がヤマト朝廷に滅ぼされてゆく神話で、その話があまりに美しいから、逆にふと滅ぼされるという現実の悲惨さを感じてしまい、本当はこんな美しいことは無かったのかもしれない、本当はこんな美しい恋も無く美しい人も無く、全て何の救いも無く塵のように踏みにじられてしまっただけなのかも…とネガティブモード全開ですが、私はつい想像して悲しくなってしまいます。だけど、もしそう言えるのであればまさしくその同じ論理で、文字で記録されていないだけでそこには本当に美しい世界や美しいストーリーがあったのかもしれないとも、ずっと消えることのない美しい余韻の中で考えていました。歴史小説だからこそどこまでも深く掘り下げられる、運命と人の精神との攻防のような。


 話戻ります。マインツのヴィルヘルム。
 とても静かな雰囲気の、淡々と進む物語、でもその中に有る人の心の痛みや、怒り、叫び、憎しみ、そして愛といった激しいものを短いけれど忘れ難い場面や言葉により爆発させるかのように表しているのがとても好きでした。人が生きることの残酷さを和らげられはしなくても黙って覆い隠してくれる森があって、そこには滅ぼされてゆこうとする異教の神々が隠れていて、いなくなったのかと思ったらにゅっと不思議な芽を出して、そこに深緑の衣の少女がいて。弱くて翻弄されるしかない少年に、いいことも悪いことも起こって、人との深い関わりもあって。そうやって懸命に生きてゆこうとする人を生かしてくれる何かが人生には時々あるんですね、そうなのかも。心の支えがあることの希望と、何かを失う寂しさ悲しさがこの静かな物語の中でとても印象深くよかったと思います。好きでした。

 彼がロイドルフにかける別れの言葉はあまりに静かで、言い回しは恨み言のようでいて、やっと落ち着いて本音が言えた安堵のようなものも私には感じられて、こういう言い方は何か使い古された感じだけど時が流れたんだな、と思うし、この人は成熟して、もう弱々しい子供ではなく、多くのものを得てきたのだという気がします。こんな言葉を口にしていながらも。私はそうはならない方なのでわからないですが。

 そして、ヴィルヘルムの母に対する思慕。信仰と母を奪われたというのは踏みにじられて人格を否定されたも同じことではないでしょうか。その苦しみを出発点として、全く自分の望まない運命に従って母とは全く逆の立場に立ち、その立場から母を思い続けたというのが面白いですね。それも不思議となるべくしてなったような。とにかく彼が成し遂げたということ自体、寛容な神々がたしかに存在した証拠なのではないか、と、思わせるような。それはつまり母と森にいた彼の幸せな時が本当のことだったのだという確かな手触りでもあって。本の表紙のあの美しい絵がそのままこの作品の主題であるように感じます。

これはひとつの信仰あるいは信念の勝利であるという面もすごい良かったと思うのですが、それにもましてヴィルヘルムの内面に関して言えば、本来誰にも知られないし知られないで良い、彼だけの傷に埋め込まれた永遠に輝く宝をその傷ごと守りきったのだとも思えて、読んでいてこちらも充たされる思いがしました。とても穏やかな心持ちで。



「アウグステの結婚」
感想

 こちらもとても良かったです。ヴィルヘルムの幻想的な話とは雰囲気が違うように感じます。近い時代だと私にはよりイメージが具体的に掴みやすいというのもあるかもしれないです。継母や兄弟との現代日本人からしたら何か鬱陶しいような距離感とかリアルに感じられて、生き生きした登場人物が皆とても魅力的。私はほぼ日本しか知らないし、私が想像でヨーロッパを書いたらつい日本の風景を基に描写してしまうと思うんですが、こういう作品は本物の外国を見ているような感覚にわくわくします。痛いくらいの極寒の空気をふと感じて何か緊張したり。

 アウグステはヴィルヘルムと同じく、自分ではどうしようもない過酷な運命に直面するのですが、流されるのとも逆らって戦うのともちょっと違う選択をする強さを見せつけてくれました。涙をボロボロこぼしながら。その勢いにちょっと私はびっくりしたし、魅力溢れる人だなと思いました。頭の良い、より良く生きられる強い人が苦しまない訳ではないのだけれど、苦しむ意味を自分で知る、或いは自分でその苦しみに何かを意味付けることができる人は多分、幸せになれると思う。と、彼女がはっきりと示してくれているように感じ勇気づけられました。

 〇〇だいすき、しあわせ〜と、幸せという言葉をいつの間にかどこかで覚えたうちの幼児が口にして私は最近びっくりしたのだけれど、私は人がどうやったら幸せになれるのか知らないしアウグステのママのように子供に教えてやることはできないです。でも私自身もだし、うちの子も、アウグステのように、何でもいいから自分で自分の幸せを見つけて、そこに向かって決断できる人になれたらいいなとふと考えていて、何かいつの間にか親目線、っていうかあれ、何だろう幸せって。そういえば幸せについて子供がいる歳になってもやっぱり全くわからないでいて。カールのような決断も私には否定できないし、幸せについて今いろいろ考えている私なのでした。こちらの作品は、幸せについて、というより、幸せになるには、というテーマがあるようで面白かったです。

 

 

 

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posted by: nanori | 同人誌文学 | 21:24 | comments(0) | trackbacks(0) |-









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